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あんちゃんの遺言
9:00am・・・今日の波/クローズ・晴れ

書家であり詩人の相田みつを『いちずに一本道 いちずに一ッ事』角川文庫を読みました。
この本は、相田さんの自伝的エッセイです。
ご自分の家族や生い立ちを書かれているのですが、中でも、『あんちゃん』の話は、
涙が出てきました。
戦前、すごい貧乏だった相田さんの家は、相田さんの上に
二人のお兄さん(あんちゃん)がいました。
上の二人のあんちゃんは勉強がよくできたそうですが、貧乏だったから、
中学校へ行くことができなかったそうです。
相田さんは、二人のあんちゃんの働きで中学へ行けました。

相田さんがまだ4歳ぐらいの時、上のあんちゃんに連れられて
紙芝居を原っぱによく見に行ったそうです。
でもお金が無かったあんちゃんは、飴を買わずにいつも後ろの方で、
紙芝居をタダで観ていたんですね。
あるとき、とうとうあんちゃんは、紙芝居のおじさんに糞みそに罵倒され、
ぶんなぐられてしまいました。
ほんとはあんちゃんは足が速いから逃げらたのに、4歳の相田さんがいるから逃げなかった。
そして殴られている間、弟(相田さん)の顔をじっと見て、泣かないように歯を食いしばって
我慢していたそうです。

それから、戦争がはじまり、兵隊に行くあんちゃんが相田さんに言いました。
『どんなにひもじくても、卑しい根性にならないでくれ。
貧すれば鈍するというけれども、貧しても鈍しないでくれ』
『どんなに貧しくても、みじめったらしい気持ちを持つなよ、と』
つまり、どういう理由があっても、紙芝居をただ見したのは、
悪いんだっていうんですよ。
もしオレが死んだら、これは遺言だぜって』

そして、あんちゃんは兵隊に行って帰ってきませんでした。
もう一人のあんちゃんも戦死しました。
そのあんちゃんは兵隊に出るとき、相田さんを呼んで言いました。
『お前なぁ、男として生まれてきた以上、しかも中学校に我々の働きで
行かせてやったんだから、自分の納得する生き方をしてくれよ。
世間の見てくれとか、体裁よりも、自分の心の納得する生き方をしてくれよ』
『同じ、生きるんだったら、少しでも、世の中に役立つような生き方をしてくれ。
そして、どんなに苦しくても、音をあげちゃいかんぞ』

相田さんの詩で、『三人分』というのがあります。
そのなかで
『わたしの仕事は
いつもこの二人のあんちゃんといっしょ
だから私の仕事は
三人で一ッです

二人のあんちゃんは
いつも私の胸の中に
生きつづけてきました

戦争が終わって既に三十八年
ずっと私の胸の中に
生きてきました
これからもそうです
私が生きているかぎりそうです・・・・』

この本を読んで、相田みつをさんという方の書の源(みなもと)を
知ることができたような気持ちになりました。
『いちずに一本道 いちずに一ッ事』角川文庫
本をすすめていただいた、栢野克己さん、ありがとうございました。
by cafe_delmar | 2011-03-18 09:39 | デルマー前:波情報